薄氷を歩む

仕事が激務だ。残業も多いし、プレッシャーも大きい。1つ間違えれば話がとん挫しかねない。協力を求めないといけない先も多い。残業も嫌いなうえに、プレッシャーにも弱いのでたいへん困っている。それでも今のところ何とかなっている。周囲からもそう言われる。僕ひとりが薄氷を踏む思いでいる。世の中にはどれだけの薄氷があるのか。

 

それなのにたまに飲みに行ったりもする。精神的な疲れからか妙な深酒をし、歓送迎会にいつまでもいて、3次会が終電間際になってしまう。入社間もない人がコールをしていて心底驚いた。前世紀の文化みたいだった。瓦斯燈みたいな。長居してしまったので、1万円置いて帰ったのだけど、翌日ほとんど返ってきた。まじめ。そして二日酔いで仕事にならず、仕事の催促は相次ぎ、後輩と昼食に行ったのに食欲はなく、心労をさらに貯めこんだりした。

 

3年ぶりに会った後輩はいまだにフワフワしていて、少年のような笑顔で些末なことに頓着せず、僕たちは大人なのに、そのようでもいられるという可能性に緩やかな気持ちになった。学生だったころのような気持ちになる。気のせいだけれど。そもそもそんな学生ではなかったけど(僕はそのころの方が気難しかった)。そして昼食は二日酔いで残した。その罪悪感もあった。でも久しぶりに穏やかだった。

 

休日は子供と地元の祭りに行った。子供が友達と会って、その子が公園についてきて、午後にもウチに来たりして、さらに別の子を呼んだりするので、人数が増えた。僕はわりと子供と遊ぶほうだし、子供の側でも僕がいることを念押ししてくるので、1日ずっと一緒に遊んだ。昼から庭でたき火をしたし、夕方には帰るらしいので、花火も明るいうちにした。けっこう盛り上がった。

 

さて、仕事はたいへん辛い。率直に言って、僕はプレッシャーに追われるような仕事はしたくない。ボルヘスの「バベルの図書館」みたいなところで、蔵書を並べ替えるような仕事でもしていたい。人はいても、ほとんど誰も声も発さないようなところで。それでも概ね生きてはいる。10年前は、生きていられるだろうかと思っていた。それを考えれば救いはある。でも辛いことは辛い。