超暴力! 『時計じかけのオレンジ - アントニイ・バージェス - 』

同名の有名な映画の原作。近未来の管理社会で、少年たちは手あたり次第の暴力をふるう。その世代だけに伝わる語彙。断絶された文化。そういうのは、普通であれば、「近頃の若いものは」みたいな、思考的硬直、倫理的浅はかさを伴った言葉で概括されがちだ。けれど、主人公たちのふるう圧倒的で無意味な暴力は、その手の評論家的な他者性を許さない。

 

倫理や自由意志という本質的な問題に悩んでいたのは、刑務所の教戒師だけで、その重荷を前に、アル中になりいつもウイスキーを飲んでいる。

 

中盤は少年の側が体制(大人)に捕らえられ、頭のなかをいじられ暴力を意図できないようにされる。これもなかなかの暴力だ。そして、娑婆に出てからは、かつて自分が暴力を加えた側からの復讐を受ける。老人も相手が抵抗できないと知れば、一生懸命に少年を痛めつける。結局、倫理的には全員(政府も)がほとんど同じレベルにいる。

 

終盤には映画になかった章が追加されている。少年は大人になって、なんとなく暴力から身を離したところに自分を置きたくなる。それは倫理的な向上を意味しているのではない。加齢で乱脈さや衝動を失っただけなのだろう。

 

こうして円環は完成する。無意味な暴力は延々と繰り返される。誰かが向き合わないといけないけれど、その試練には耐えるのは難しい。教戒師はイメージのなかで十字架を背負う。けれど実際の彼は、アル中であり、限定された個人なのだ。