「純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語」 - ガルシア・マルケス

ガルシア・マルケス 1928-2014

コロンビアの作家・小説家。代表作は「百年の孤独」。1982年にノーベル文学賞を受賞。

 

魔術的リアリズム」で知られる。あまり格好のいい形容には聞こえない。語感だろうか。幻想的な表現を、あくまで現実のものとして描写する手法のことらしい。語りがいつの間にか神話性を持つ。そういう意味では確かに作風を説明してくれている。

 

「純真なエレンディラと〜」はガルシア・マルケスの10遍ほどの短編集。代表作の「百年の孤独」はある一族の興亡記録で、おそろしく面白いけれど、長く、現実と幻想の境は曖昧で好みがわかれそうなので、この短編集は試しにもいいかもしれない。

 

しかし試しというにはあまりに良い短編集だと思う。初期作の「大佐に手紙は来ない」はリアリズムに寄っている。延々と来るあてのない軍人年金を待つ大佐は、生活が困窮しても過去を振り切ることをしない。

 

「この世で一番美しい水死者」は徹頭徹尾が神話のような語りになっている。何も語らない美しい水死者が、貧しく荒廃した土地の人間の想像力を喚起し、最後には共同体の変化までが示唆される。

 

表題作は欲深い祖母と、極限まで利用される孫娘の話。意地悪な老婆というモチーフは繰り返し語られるけれど、この老婆の異様なまでの欲深さはある種の純粋さを帯びて、グロテスクなストーリーのはずなのに、神話のような響きを持ち始める。

 

限りなく芸術的な文学だと思う。ほかと比べるのは難しいだろう。未読のガルシア・マルケスの作品はまだたくさんあり、そのことにとても幸せな気持ちになれる。