喪失と失望『どちらでもいい - アゴタ・クリストフ』

 

この世の何処にも、父がわたしと手をつないで散歩をした場所はありません。

 

ハンガリー出身の亡命作家。フランス語の作家だけれど、フランス語はけっして母語ではないと自伝に書いている。いるべき場所ではないところにいる、という話を延々とする自伝だった(『文盲』)。とてもよかった。『悪童日記』が有名。

 

この短篇集でも、繰り返し、喪失と失望が書かれている。対象の判然としない喪失と失望。短篇集として書かれてものではないらしく、断片に近いものも含まれている。喪失と失望に関する断片。

 

廃線の駅で老人が列車を待ち続ける。老人は狂っているが、すべてが狂気なわけでもない。自分が捨てたもの、結果的に失ったものは理解している。そしてしっかり狂っている。綺麗と言えば綺麗だった。救いはないけれど、徹底しているからか、そこまで暗い気持にはならない。