箱根(芦ノ湖)

箱根に来ている。今は夜の11時で、かなり強めの雨が降っている。今日は1日雨だった。夜になってますます強く降るようになった。暗くて見えないけれど、宿の前には芦ノ湖がある。その水面にもたくさんの雨が降っているだろう。紅葉しきったモミジと、葉の落ちたブナが立ち並んでいた。ここでは、すでに晩秋というより、冬が始まっている。

 

テーブルの上にビールがある。このビールは320円。観光地だから、市価よりは少し高い。320円のスーパードライだ。稀少さを感じる。何しろ、音楽はなく、旅行先で動画や本で時間を使うのも、と思い、そうなるとすることが何もなかった。ビールを飲んで、雨の降る音を聞くくらいしかない。窓の外は真っ暗だ。

 

貴重なビールというのがある。320円出してもいいと思うような。どこか別のキャビンでは、サークルの大学生のような人たちが、デッキでバーベキューをしていたらしい。外は10℃だよ(体感)とも言える。または、多少がんばってでも、バーベキューなりをするべき時なのかもしれない。遠目には滑稽に見えても、必死でないと手元に何も残らない、だろうか。

 

雨は止まない。家の中から雨の音を聞くのは好きだから、それはいいのだけど。夏目漱石もそんなことを書いていた気がする。窓の向こうに大雪を見るのは、文明を再確認することだ、みたいなことを。

 

芦ノ湖は太古の昔にできたカルデラ湖だったと思う。流出する河川などはあるのだろうか。つまりは火山の噴火でできた大きい水たまりが、コンスタントに川に水を供給できるのか疑問に感じる。通例、大きい水たまりは雨が降ればますます大きくなる。目の前の芦ノ湖はどうだろう。真っ暗で何も見えない。

 

足元までヒタヒタと忍び寄る水の面。芦ノ湖が少しずつ大きくなっていく。このキャビンも、大学生の夢も、すべてを飲み込み、渾然とさせ、茫漠としたまどろみの平和に溶け込ませるような。