問題は英国ではない、EUなのだ - エマニュエル・トッド -

世の中にエマニュエル・トッドを読む人は意外に多いのだと思う。大きい本屋なら、新刊が平積みにされている。数千円する大部の本をそれだけ好んで読む人がいるのだろう。読みたいけれど、難しそうで逡巡する。ただ、少なくとも文庫になっているものは説明が平易で読みやすい。

 

トッドはフランスの歴史人口学者で、世界の現状を人口動態や家族構造で分析する。アメリカの相対的衰退(ただし人口動態的には安定している)、ドイツの移民推進での冒険(出生率の減少と地域覇権への拘り)、中国が直面する危機(移民では解決できない規模の人口減少)など。

 

本著では、ブレグジットなどのヨーロッパの混乱を、民主主義の回復として解釈する。グローバリズムはルールメイキングをするごく一部の国(アメリカ)への盲目的な追随と見なされる。他国の議会は決定権を奪われ、国民は政治参加の実感を希薄にする。それを回復させようという動きが、現今のナショナリズムの高まりにつながる、ということらしい。大変明瞭だ。たまらない。

 

新採用の研修を受けたあと、台風が来ていて帰れなかったことがあった。たいして気の合わない人と飲み屋に行き、なぜか日本が直面する一番の課題は、みたいな話になった。一人だけで少子高齢化を挙げることになった(大体の人にとってはそれは景気浮揚らしい)。

 

飲んでるときに政治の話はいけない。飲んでないときだって楽しくないのに。深夜になって外に出たら雨はすでにやんでいた。世界は急に一変する。翌日の仕事は休んだ。とっくに過ぎ去った台風が悪いと言い張って。

 

あのときにエマニュエル・トッドを知っていても、結果は一緒だっただろう。飲み屋でされる論争は非常に愚かしい。繰り返すべきではない。それでも、明晰で実証的な文章を読むと興奮する。世の中にはそういう性分もある。