住んでいた町(上星川)

上星川というところに住んでいたことがある。働くようになってすぐのころだった。上星川駅横浜駅から相鉄線で15分くらい、各駅停車しか停まらない。駅の近くに営業しているのかわからない銭湯があった。営業しているのかはわからなかったけれど、煙突は目立った。駅の近くの路地を歩くとたびたび目に入る。

 

久しぶりに行っても煙突が見えるポイントだけ妙に覚えていた。この角の家とアパートの間から見えたはずだ、などと。上星川には特に意味もなく行った。前に住んでいたところを見ようとしただけ。大した変化はなかった。煙突もあった。

 

ただ、住んでいたアパートは共用部が妙に綺麗になっていた。花なんかが植えてあった。ポストには不要な本を共有するコーナーまであった。僕が住んでいたころは、マンションのチラシなどを床に捨てる人が多かった。ゴミ箱があるのに床に捨てるらしい。そんな雰囲気に違和感のない集合住宅だった。

 

家のドアを開けたら、共用の廊下部に黒人男性が座っていたことがある。かなり驚いた。ここに住んでいるのか聞いたら、放っといてくれ、みたいなことを言われた。外国人差別と思われたかもしれない。そんなつもりはないけれど、急に目前に大きいのがいたから驚いた面はあった。爆笑問題の小さいほうで同じようには感じないだろう。

 

住んでいるときに2時間くらい停電したこともある。停電のヘリがどこにあるのか気になって、近所を歩いて回った。ここから先が停電している、というのは、当たり前だけど実によくわかる。そこからこちら側は真っ暗なのだから。

 

同じように外を歩いている人がたくさんいた。停電下で家でやることがないのだろう。そのうちに原因らしい電柱に電気会社の技術者らしき人が集まり、急に停電が復旧した。一瞬拍手しそうになった。観衆である僕たちには、いっときライブの終わりみたいな一体感があったかもしれない。

 

それからみんな何もなかったかのように家に帰った。やることができたのだろう。動画サイトや読書など。そして2度と会うことはない。

 

あのときの人たちが、今どれだけ住んでいるかわからない。入れ替わりが激しそうな気もする。あるいは誰かとは、あの停電は、意外に楽しかったですよね、と話せるのかもしれない。相手は外国の大きい人かもしれない。本当に大きかった。