カナヘビ

カナヘビの話をしていて、カナヘビの喧嘩を眺めていたことがあったのを思い出した。簡単に睡眠のリズムを崩すので、その晩には眠れなくなる。特にそれがすぎた日に、窓辺でタバコを吸いながら朝を迎えて、始発の電車が走り始めるのを聞いている最中、カナヘビが喧嘩していたのだった。

だから何ということはない。とかげの喧嘩なんて、街でのおじさん同士の言い争いほどにも印象に残らない。今日までずっと忘れていた。机の引き出しに入っていた特に役に立たないもののように、取り出してなぜこんなものが、と少し考えて、またしまう。元どおり。

ある日、月がとても大きかった。とても不思議な光景だろう。それも忘れてしまう。月が大きく見えるのは、低い空にある時で、周りの構造物と遠近で比べる心理的な効果によってそう感じるのだそう。それでも不思議は不思議のまま。

滅多に閉じない踏切。一度だけ、とても長い貨物列車が通り過ぎるのを待っていたような気がするのは記憶の混乱なのか。延々と続いた。海に向かう道の車列。その先のゲート。倉庫街と猫。暇を持て余した倉庫番。どこからかは明らかに空想が混濁している。閾は最早分からない。

全ては静かだった。夏のとてつもなく暑い日で、ようやくたどり着いたと思った場所は海というより河口。対岸までは1キロ以上はありそう。建設中の高層マンションの下。これから使われるはずのボードウォークを歩いた。あれはよかった。水上の船の方から、金属質のものを叩く音がしていた。ずっとしていた。

誰かが何かを言う。何だっけ。「この先は通れません」とか、そういう類の言葉だった。この先は通れない。寓意に満ちた表現。

カナヘビは喧嘩をしていた。机の引き出しには、たくさんの「この先を通らなかった」の具象化が眠っている。たまに取り出す。捨てさえしなければ、とりあえず、しばらくはそれができるはず。